光舞う森での誓い
〜 1 〜






「ルヴァ、ルヴァ!」
 大きな足音と元気良く名を呼ぶ声が近付いてくる。書棚の前で本に目を落していたルヴァが、その声の主に気付いてふわりと微笑う。視線を部屋の入口へと向けたとき、勢いよく扉が開いた。
「ルヴァ、あのなっ!」
「あ〜、ゼフェル、どうしたんですか? こんな時間に、そんなに大きな声を出して」


 時刻は、もうすぐ長針と短針がぴったりと寄り添う頃。窓から見える暗い空には細い月が顔を覗かせていた。
 扉を開けたままルヴァに歩み寄ろうとしたゼフェルは、思い出したように扉へと戻り、きちんと閉める。くるりと振り返る姿を見て、ルヴァがくすりと笑う。照れたように笑うと、ぱたぱたと駆け寄った。
「な、あしたの夜暇か?」
 ぎゅうっと抱きつきながら見上げてくる。急くような抱擁にルヴァはほんの少し困ったような笑みを浮かべながら、ふわりと抱き締めかえす。と、目の前の身体からの匂いに気付いて眉を顰めた。
「あ〜、ゼフェル、貴方また下界に降りてましたね?」
 以前嗅いだことのあるアルコールの匂い。ゼフェルが下界に降りるといつも必ず飲んでかえると聞かされ、一緒に飲んだこともある酒と同じ匂いを、その日のゼフェルは身に纏っていた。


 僅かに注意の色を混ぜたルヴァの声に、頬を膨らませる。
「……なんだよ。かてーこと言うなって」
「あ〜、そうではなくて、ですね……」
 背中に回していた手を頬へと伸ばし、首を傾げるようにして微笑む。
「その日のうちに、ちゃんと戻ってきて下さいね〜?」
 その言葉を聞き、膨らませた頬がぺしゃりとへこみ代わりに笑みが戻った。ゼフェルも同じようにルヴァの頬へ手を伸ばし、頭を引き寄せてそうっと額に口付ける。
「……わーってるよ。ちゃんとルヴァのとこに戻ってくるから」
 言ってしまってから照れたようにもう一度微笑う。そのまま腕を伸ばし、肩をぎゅうっと抱き込んで全開の笑みを浮かべる。待っていますね、とルヴァは返し、改めて抱き締めかえした。


「あの〜、そういえば先刻、なにか言いかけませんでしたか〜?」
 その台詞にきょとんとした顔をする。あ、と口を大きく開けたと思うと、ルヴァの肩を掴んで青鈍の瞳を覗き込む。
「そう、そうだ! あのさ、明日ヒマか?」
 大きな紅い瞳が覗き込んでくる。見つめかえしながら暫し考え込むルヴァ。ややして大きく頷くと、大丈夫ですよ〜、と笑った。
「明日、なにかあるんですか?」
 首を傾げる彼に、満面の笑みを返す。内緒だ、というゼフェルに更に首を傾げる。くすくすと悪戯っぽい表情で笑い続ける様子を見て、明日まではどうしても教えてもらえないと知る。そんなことはいつものことで。傾げていた首を元に戻すと、にっこりと微笑みかえしながら口を開いた。
「明日になれば判るんですねぇ。……それで、わたしは何処で待っていたらいいんですか?」
「夕日が沈むくれーに迎えに来るからさ、動き易い格好して待ってろよ」
 絶対だぞ、約束だかんな、と念を押すゼフェルにうんうんと幾度も頷いて見せるルヴァ。久しぶりに、ゼフェルが外へ誘ってくれる。たったそれだけの事だったけれど、今はそれがとても嬉しくて。約束を確認しながら嬉しそうに頷く彼の姿を目に焼き付けるようにじいっと見詰めた。


「じゃ、明日な! 約束忘れんなよ〜っ?!」
 嵐のようにやってきて、嵐のように帰っていく。そういう表現が実によく似合う恋人を玄関先で見送りながら、心はもう明日へと飛んでいた。何処へ行くのだろう。何をするのだろう。いつもいつもルヴァの考え付かないことばかりを考え付いて、とても驚かせてくれるゼフェル。



 その日の夜、ルヴァはなかなか寝付けなかった。








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