護りたいひとが居るということ

〜 1 〜






 ドアを開けるとそこには、悩みの無さそうな笑顔があった。
「あれ、なにしてるんだ?こんなとこで」
「……それはこっちの台詞だ。てめーこそなんでこんなとこに居るんだよ?」
 相手の険悪な雰囲気を全く感知せず、ただにこにこと不思議そうに微笑う。暖簾に腕押しとは全くこのことで、相手を睨みつけていた紅い瞳は心成しか疲れたような風情をもって伏せられた。



 閉まっていたもう片方の扉を押し開けて出て行く栗色の髪に半身だけ道を譲り室内に目を転じると、待ちかねたようににっこりと微笑む青鈍の瞳に出くわした。厭そうな貌を作る教え子に、困ったような笑み。
「いらっしゃい、ゼフェル。昨日の分も用意してありますから、今日は頑張りましょうね」
「げーっ」
 紅い舌を出して盛大に嫌がってみせる。その銀糸をぽんぽんと撫でながら、扉の外で微笑う青の瞳に笑顔を返した。
「また色々聞きに来ますね!……ゼフェルも真面目にやれよ?」
「おめーにそんなこと言われる筋合いねぇよっ!」
 幾度となく繰り返されてきた、乱暴な言葉の応酬。それでも、いざというときのお子様組の結束力は強い。少年から青年への過渡期にある不安定で多感な精神。反発するかと思うと強い力で引き合う、その不思議に興味は尽きず、うんうんとひとり頷くルヴァを、ゼフェルは思いっきり小突いた。



◇   ◇   ◇




「でも、あれで結構真面目だったりするんですよね」
 ばふんと寝台へ飛び込みながら、笑みを湛えた貌で独り言う。
「人一倍覚えもいいですからね、あの子は。でも……もう少しだけ、気分の斑が無くなるといいんですけれどね〜」
 寝台を軽く軋ませて、夜着のルヴァがその隣に座る。ごろりと横になったまま身体を反転させ、微笑む青鈍を見上げた。ふと、視線が絡む。
「ランディ……」
 白いターバンが揺れて、綺麗という形容が酷く似合う貌が近付く。
「ルヴァ、さ……」
 柔らかくて甘い唇が触れる。それを受け止めながらランディは腕を伸ばし、更にルヴァの顔を引き寄せた。深くなる、口付け。



 ややして離れたルヴァの貌は、ほんのり紅くなっていて。
「……上手く…なった、…です、ね」
 掠れた声と潤みかけた瞳が、先の言葉を雄弁に裏付けていた。照れたように小さく笑うと、ランディが頭を掻く。
「けど、やっぱりまだ照れちゃいますね」
 肘を突いて上体を起こし、微笑いながら肩を竦める彼を見詰める。
 誰に汚されることもない、ただひたすらに真っ直ぐな瞳と心。初めて逢った時から変わらないそれに、眩しげに目を細めた。
 緩く握られていた片手を取り、己の首筋に当てる。僅かに見開かれた青い瞳をゆるりとした笑みで見返したまま、取った手で自分の首筋を撫で上げさせて最後に頬を摺り寄せた。こくりと息を呑む青の視線と、とろりと融け出し始める青鈍の視線が絡み合う。
「ルヴァ様…」
 片手を寝台について半身を起こし、端に腰掛けていたルヴァをそのままゆっくりと引き倒す。上半身を抱きこむような形で上から見下ろし、もう一度口付ける。最初は触れるだけ。徐々に深く、深く。
「……舌、を…」
 掠れた声が望むまま舌が伸ばされ、唇を辿り歯列を割る。頤を上げてそれを喰み、咥内へ誘い込んで甘く吸う。ひく、と戦慄く肩を宥めながら、今度は自分にもして欲しいとばかりに、己の舌を忍び込ませた。
「…っん」
 挿し入れられた甘い舌を、以前教えられた通りにゆるゆると吸い上げる。柔らかい感触を確かめるように幾度も舌先で撫で、絡めとり、深く合わせてから甘噛みする。



 ぴちゃりと音をたてて開放すると、眼下の白い肌はすっかり上気して艶かしい色を放っていた。こくりともう一度息を呑むとほぼ同時に、ルヴァが微笑う。
「もっと…違うところにも」
 『口付けてください』。言外に含まれた台詞が、ランディの頭の中で木霊する。
「違う、ところ……」
 思わず漏れた言葉にルヴァの手が伸び、肩にかけられていた手を取って自分の首筋に触れさせる。滑らかな感触に息を呑み、誘われるように唇を近付けていった。触れた瞬間の、瑞々しさ。
「…ぁ……」
 唇で触れ、舌で辿り、軽く吸い付いて淡い痕を残す。幾度も繰り返されるその行為に、ルヴァの表情が蕩けていく。
「もっと…」
 誘う台詞と濡れた瞳。『こういうこと』に慣れていないランディはあっさりと陥落してしまう。
 眩暈がするほどの快楽を予感してか、ルヴァの喉が鳴った。




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